恋色流星群
5
部屋の外で話していた航大が戻ってきて。
私より目線を下げて、しゃがんだ。
胸から感じた、航大の香りが薄く舞う部屋で。
私だけ一人、ソファの上。
「理沙、ごめん。俺これからまた仕事戻らないといけないんだけど。」
『・・・全然大丈夫だよ。私のほうこそ、ごめん。』
青いマグの紅茶は柔らかく冷めて。
ただ甘く、レディグレイの香りを放つ。
ひとしきり泣いた後。
手を引かれるままに車に乗り、航大のマンションへ連れて来られた。
ここへ来るまで。
俺の何分後に上がって来いだの、部屋への上がり方だの指紋認証だの。
いろいろ面倒なことを言われたはずなのに。
無事たどり着いたドアを開けて、腕の中に戻れたときは。
枯れたはずの涙がまた溢れた。
初めて訪れた航大の部屋は、この色男のプライドを感じさせるシンプルで生活感のない部屋で。
当たり前だけど部屋中から立ち上がる航大の気配が、くすぐったさと落ち着かなさを与えた。
『私のことは気にせず、もう仕事戻っていいよ。
ただ、悪いんだけど・・・明るくなるまで、ここにいてもいい?まだ一人であそこに帰るのはちょっと怖いかも・・・。』
あの後、航大の腕の強さで。体は何度も上書きされたはずなのに。
私を覗く暗い目と、引きずられた体の感覚がリアルにフラッシュバックしては。
鳥肌が立った。
「いや、俺が帰って来るまでここにいて。」
大人が子供を優しく見上げるように。
いつになく、ゆっくりと話す。
「また朝方に少し戻って来れるから。その時マンションまで送るから。だから、それまでここにいろ。」
『や・・・けど、』
嬉しい。
けど、それと同じくらい申し訳ない。
嬉しいと申し訳ないを半々に合わせたら。
何ていう感情になるんだろう?