恋色流星群
「そうしろ。たまには俺の言うこと聞けよ。」
いつもの、片側だけ上がる口元で笑むと。
私の頬に手を伸ばす。
「すっげー涙の跡ついてる。笑」
久しぶりに顔を会わせて。久しぶりに、この笑顔。
恐怖と引き換えに手に入れた安堵は、私の全身をすっぽりくるんで。
『・・・ごめんね。』
それ以上、何も言わせない。
ふわっと目を細くして立ち上がった彼を、慌てて追いかける。
「シャワーとか部屋着とか、適当に使って。あと、もうすぐチョコ来るからさ。インターホン鳴ったら開けてやってね。」
『へ?チョコ?』
間抜けな返しをしておきながら、すぐに思い当たる。
航大が、呼んだんだ。
私がこのまま一人でいなくてすむように。
『なんかみんなに迷惑かけて、本当にごめん・・・。』
自分で自分の落とし前をつけられない人間なんて大嫌い。
まさに、今の私だ。
「俺が一人にしたくなかっただけ。」
車のキーを手にする音が聞こえるのに。
もうすぐ出て行く背中を、上手に見送れない。
やばい。
なんか、急に。
急に猛烈に寂しい。
「頼むから、出がけにその顔すんな。笑」
唇を噛んだまま、見上げた航大は。
早くも、外の世界のピリッとした空気を纏って。
だけど、その瞳は泣きたくなるほど優しくて。
「いい子にしてろよ。」
一瞬だけ頭に落とされた手の平は。
泣きたくなるほど、大きくて温かい。
私は何も言えないまま。
閉まるドアの前で、立ち尽くしていた。