恋色流星群
7
体は航大のTシャツの中で、見事に泳いだ。
一応、チョコの出してくれた短パンにも足を通してみるけど。
腰で止まるどころか、すとんと真っ直ぐ床へ落ちてしまう。
諦めよう。
いつも見上げる並び位置。
航大のお召し物が、チビな私を気にいるわけがない。
首に回った時の、腕が太いとか固いとか。
押しつけられた胸が、広いとか厚いとか。
そういうことより、このサイズ感のほうが客観的に航大の大きさを見せつけてきて。
なぜか胸がきゅうっとした。
リビングのドアを開けると真っ暗な部屋で、チョコはテレビを見ていた。
『何見てるの~?』
濡れた髪を拭きながら、ソファの上で胡座をかく彼の隣に座る。
テーブルには、小さなワインのボトルと。
何本かの、倒れたビールの缶。
「気持ちよかった?」
ふわんと笑った顔に、テレビの光が反射して。
黒い瞳がとろんと濡れて見えて、一瞬ドキッとする。
・・・泣いて、ない、よね。
『あ・・・これ、好きなやつ!』
大画面のテレビには。
私の大好きな、可愛い子豚が大奮闘する有名な映画が。
「まじかー、俺初めて見たんだけど。これやばいね。」
『リアルタイムでやってんの?』
「いや、これDVDだよ。航さんの。」
『まじで!笑える!なんでこんなの持ってんの?笑』
ワインのボトルが気になって手を伸ばすと。
「理沙も飲む?」
チョコが立ち上がって、キッチンに向かった。
『見たことないワインだ。どこの?美味しそう。』
「分かんない。それも航さんの。」
はい、とチョコがワイングラスに注いだ赤いシロップを差し出す。
ふわっと鼻に抜ける、葡萄の渋さと濃厚な香り。
『うまー!』
「ね。」
チョコの優しさは。
到底当たり前にはできない、先回りした思いやりを。
何でもないことかのように見せかけて、すっとそこに置いていくこと。
相手が気づけばいいし。
気づかなくても、いいし。
私はその思いやりに、漏れなく気づいていきたいと思うけど。
きっと本当は、漏れてばかりなんだろうな。
『私、男友達はチョコだけでいいって思う。』
「おー。嬉しいね、それ。」