恋色流星群
油断症と心配症の
果てのない、攻防戦。
万が一、想定以上に怒られたり、沈黙が続いたり。
気まずい感じになっても、きっとタイミングよく呼び戻してもらえるだろうと。
あえて、仕事中に席を抜けて電話をしたのに。
こんなときに限って、葵ちゃんもボーイくんも、助けには来ない。
くすぐったい。
耳が熱い。
一番の問題は静かな要くんのこの怒りに。
不謹慎なこの胸が、甘く痛むこと。
ただひたすら唇を噛む対戦相手に、休戦の申し入れをしてきたのは。
要くんのほうだった。
「・・・分かった。今日のとこはね。
この話は、また日曜にしよう。」
『うん・・・。』
“日曜”
目下、私をそわそわさせる単語に心臓が動いた。
『・・・何かしたいこと思いついた?』
「うーん。とりあえず、理沙を取り返す。
今回のチョコ、役得すぎるだろ。笑」
『取り返せ、取り返せ~♡』
少し明るくなった声色が嬉しくて、無責任に囃し立てると。
「いいの?笑
理沙子の身体、なくなるぞ。」
揶揄うような甘い低音が。
やけにはっきり、電話口から耳に飛び込んできて。息を飲む。
なくなるって、なに?
どうしたら私は、なくなるほど、取り返されるの?
今、この電話の向こうの笑顔は。
きっと死ぬほど。
いたずらで、甘い。
『なくならないよ。』
「へぇ。笑
試してみる?」
“家に着いたら連絡して”と念押しをして切れた電話に。
浅い、深呼吸をしてみる。
おかしいな、こういうの苦手だったはずなのに。窮屈な指示は、嫌いだったはずなのに。
生ぬるい夜の風さえ心地よく感じて、頬の熱に気づく。
葵ちゃんとアフターを終えて、城に帰還した午前3:30。
酔っ払いながらも、約束どおり『いえ着いたよ』と送ったメールが。
瞬時に既読になり、「よかった」と一言だけ返ってきたとき。
“今日は朝まで仕事してるから”
電話の声がリフレインして。
そばにいるような錯覚に
懲りずに胸が
甘く鳴いた。