恋色流星群


油断症と心配症の

果てのない、攻防戦。






万が一、想定以上に怒られたり、沈黙が続いたり。

気まずい感じになっても、きっとタイミングよく呼び戻してもらえるだろうと。
あえて、仕事中に席を抜けて電話をしたのに。



こんなときに限って、葵ちゃんもボーイくんも、助けには来ない。









くすぐったい。

耳が熱い。





一番の問題は静かな要くんのこの怒りに。

不謹慎なこの胸が、甘く痛むこと。









ただひたすら唇を噛む対戦相手に、休戦の申し入れをしてきたのは。

要くんのほうだった。




「・・・分かった。今日のとこはね。
この話は、また日曜にしよう。」

『うん・・・。』



“日曜”


目下、私をそわそわさせる単語に心臓が動いた。



『・・・何かしたいこと思いついた?』

「うーん。とりあえず、理沙を取り返す。
今回のチョコ、役得すぎるだろ。笑」

『取り返せ、取り返せ~♡』




少し明るくなった声色が嬉しくて、無責任に囃し立てると。








「いいの?笑
理沙子の身体、なくなるぞ。」









揶揄うような甘い低音が。

やけにはっきり、電話口から耳に飛び込んできて。息を飲む。




なくなるって、なに?

どうしたら私は、なくなるほど、取り返されるの?

今、この電話の向こうの笑顔は。
きっと死ぬほど。









いたずらで、甘い。









『なくならないよ。』

「へぇ。笑
試してみる?」




“家に着いたら連絡して”と念押しをして切れた電話に。
浅い、深呼吸をしてみる。


おかしいな、こういうの苦手だったはずなのに。窮屈な指示は、嫌いだったはずなのに。

生ぬるい夜の風さえ心地よく感じて、頬の熱に気づく。


















葵ちゃんとアフターを終えて、城に帰還した午前3:30。

酔っ払いながらも、約束どおり『いえ着いたよ』と送ったメールが。


瞬時に既読になり、「よかった」と一言だけ返ってきたとき。








“今日は朝まで仕事してるから”

電話の声がリフレインして。








そばにいるような錯覚に

懲りずに胸が

甘く鳴いた。

< 130 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop