恋色流星群
8
待ち合わせをした、鰻の某名店で。
個室の席に通されて間も無く、航大が入ってきた。
相変わらずのスタイルで。
サンローランのジャケットを身に纏う。
嫌味なほど、隙がない。
「よ。」
『ごちになりまーす♡』
「第一声、それ?笑」
シャネルのサングラスを外して、こちらを見ずに笑いながらおしぼりに手を伸ばす。
『ねぇねぇ、一番高くておっきいの頼んでいい?♡』
「いーよ、俺今日食えるから。」
あまり食べられない体質なのに、食い意地のはった私。いつも、多めに頼んでは残してしまう、悪い癖。
航大は慣れた手つきで、そんな私を甘やかす。
残ってしまっても、今日は自分が食べられるから好きなものを頼めと笑う。
私たちは大好物の鰻を突きながら、他愛もない話を続けた。
天然な航大に笑わせられたし、口の悪い私に航大もよく吹き出した。
「おまえ、小悪魔通り越して悪魔だな。」
航大が苦笑すると、なぜか嬉しかった。
98%のリアルと、2%の緊張。
ここにあるのは、いつも同じ割合。
お店に向かうため、久しぶりに乗った航大の車。
後部座席で、あくびが止まらない。
「寝とけ。店着いたら起こすから。」
『すぐ着くじゃん・・・。』
「20分は寝れるだろ。」
車の中で流れていた音楽のボリュームが、小さくなる。
「・・・昨日、遅かったのか?」
『うーん・・・昨日は、先輩のお客さんについたから・・・』
飲むのも仕事。
アフターに付き合うのも仕事。
何とも思ってないし、これが私の仕事だから仕方ない。
柔らかい革のシートの感覚と。静かに流れるように進む車の走行。
低く、耳に降る、航大の声。
次に止まった信号で、航大が脱いだジャケットをかけてくれたときには。
私はいつよりもずっと。
静かで心地良すぎる眠りにおちていた。