恋色流星群
3
お疲れさまです、と。
アヤちゃんはまた、いつもと違う場所で車を降りて行った。
最近のアヤちゃんは、きっと恋をしてる。
つまらなそうだったり、あまりにも分かりやすく嬉しそうだったり。
感情表現がとても豊かで、そうかと思えば色っぽく笑う。
窓から見える、きっと好きな人のところへ息弾ませ向かう背中。
いいなぁ、艶っとしてて。
「理沙さん、ラジオつけていいですか?」
『うん、どーぞ。』
先輩とアヤちゃんと乗り合わせた、仕事後の送りの車。
先輩はもちろん優先して。そわそわしてるアヤちゃんのために、今日はアヤちゃんにも先を譲った。
運転するボーイくんと、私の2人きり。
ぼんやり、何かの番組でパーソナリティが喋ってるのを、声だけ聞き流しながら。
星が見えないかな、と夜空を探してた。
瞬間、聞こえてきた歌声が。
彼のものだと気づくのに、1秒もかからなかった。
甘く、脳みそを震わすような。
澄んだ声が体に溶ける。
夕陽が海に沈んでいくように。
心が、温かく満たされていく感覚。
『もうちょっと、おっきくして?』
「あ、はい。理沙さん、要陽斗好きなんすか?」
『うん。好きだよ。』
自分もっす、と嬉しそうに笑いながら。
ボーイくんが程よくあげたボリュームで、車内に陽斗くんの声が響いた。
この歌を、別の人が歌ってるのを聞いたことがある。
きっと、陽斗くんがカバーしてるんだろうな。
冷たい窓の感触を頬に感じながら。
私、何してるんだろうとぼんやりする。
“よく見て、選んで。そして決めてくれればいい”
あんなに、優しい人。
私の人生で、きっと最後だ。
シートにもたれて、目を閉じた。
彼の声の中に、体が末端から溶けていく錯覚。
“歌うときも話すときも”
“俺はいつも理沙子を思ってる”
愛を唄う歌詞と、あの朝の言葉が重なって。
なんだか私は
涙が出そうだと思った。