恋色流星群

10



ぶんぶん、と右腕を振ってみたけれど。

涼しい顔で、外を見てる。








じゃあね、とチョコに手を振って。

タクシーのドアが閉まった瞬間、下ろしかけた右手を捉えられた。
私の右手の先に、航大の左手。

寸分の隙間も空かないように、深く絡んだ指先。





「ここ、真っ直ぐでいいですか?」

「はい。で、次の交差点を左に。」


慣れた口調で、私の家へ道案内する。



『レオン寝てるよ。』

「じゃあ、寝顔見たら帰るよ。」

『おめーは女子か。』

「は?」

『好きな男子の家に上がり込むために、ペットをダシにする女子か。』

「いいよ、もう何でも。笑」




耳の辺りに、ふわっと近くなった気配に。

思わず身が竦む。





「少し触れたら、ちゃんと帰るから。」






レオンに?

私に?



前髪を分ける甘い手つきと。

暗い車内で光る、熱に浮かされた瞳に。


ギリギリになったら考えようと、自ら思考を捨てる。








「この・・・辺りで、よろしいですかね?」

『あ、はいっ!』


いつの間にか用意されていた、見覚えのある風景に。

慌ててクラッチからお財布を取り出す。



「いいって。」



左手で私の手元を抑えて右手で運転席に数枚のお札を差し出す。



『やだ!さっきのお金も絶対払うからね!ていうか、いくらだったか教えてよ!』



シャツの胸ぐらの辺りを掴んで揺するけど、その先の分厚い胸はびくともしなかった。

むしろ、狭い車内に航大の生っぽい香りがふわっと立ち上がってしまって。


よく知る、その香りに。
慌てて手を止める。











立てるか?と先に降りて、顔を覗き込まれて。

頷いたものの、意外に酔いが回っていたことに気づく。




「ほら。」


差し出された手に、つかまり立ちするように外へ立ち上がる。

最近この右手は、なぜかいつも漏れなく温かい。

私の全体重をかけても、ちっともびくともしない彫刻野郎。

その前髪を揺らす風は、思ってたより冷たくなっていた。













さすがに、公道を手を繋いで歩くなんて抜けたことはしない。

少し距離を空けて歩く私を振り返らずに、そのままエントランスを潜ろうとする背中。


鍵持ってないくせに、と慌てて後を追う_______
















はず、だった。



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