恋色流星群
部屋のドアが開いた瞬間、倒れこんだ私の背中を強くさすりながら航大が声を出す。
「理沙、大丈夫だから。もう着いたから、安心しろ。」
息が、吸えない。
助けて。
死んじゃう、助けて。
ボロボロと流れる涙が、口の中に入ってくる。
息が、吸えない。
怖い。
助けて。
グッと、両頬に手の平の熱を感じて。
涙と嗚咽でボロボロの私の顔は、航大に真正面から捉えられる。
「俺を見ろ。ゆっくり吐いて_________ゆっくり、吸って。」
ヒッ、ヒッ、と。
高く消えそうな音を出しながら、航大の大きな肩の動きにしがみつこうと。必死で暴れる呼吸を抑える。
「そう、大丈夫、吐いて________吸って。」
怖い。
死ぬほど、怖い。
深い闇の向こうに
連れて、行かれそう。
滲んだ視界の向こうに、航大が見える。
そっか。
今は、航大がいたんだ。
こんなに頬を熱く包む大きな手が
易々と、私を手放すはずがない。
この感情はきっと。
私たちにしか分からない。
“信頼”に似てるけど、きっと少し違う。
この世界にある、どの単語にも
きっともう当てはまらない
私たちの関係。
だんだん、と。
私の元に戻ってきた呼吸が。
ヒーッ、ヒーッ、と
音を立てながら航大のものに重なり始める。
身体中に巡り始めた酸素が。
ふわりと、硬直した神経を一つずつほどいてまわる。
最後の一呼吸で
酸素が深く染みわたったとき。
ぐらん、と。
力をなくして前に倒れかけた身体は
思ったとおり、厚い胸に受け止められた。
「もう、大丈夫。」
耳に温かくかかった声で
完全に、恐怖から解き放たれる。
重なる、航大の音と私の音に。
甦る、あの南国の夜。初めて知った、熱と理性。
立ち込めるCHANELのnoir。
この狭い空間には、名前はないけれど。
こんなに深く息ができる場所。
私には、他にない。