恋色流星群


話さなくていい、と頬を包む手の平の熱さに。

私はまた、視界が滲んだ。



レオンがケージの中から出てこない。

大騒動とともに帰ってきた私たち。
きっと、怖がらせてしまった。







『ごめん、もう、大丈夫。明日も仕事でしょ、朝早いんでしょ。
帰ってくれていいよ。』


私をソファに下ろした後も。
片時も離れずに、ひたすら私の髪を撫でて側にいた。


「早くない。だから、いていい?」


いていい?と聞きながら。答えはもう、決めている顔。



頷くと。

一瞬、手の動きを止めて。ふんわり、笑った。






『なんで分かったの?』

「なにが?」

『さっき。私、息が吸えないんだって。』

「ああ。」



喉が渇いたな。
唾を飲み込むと、カラカラに渇いた喉が痛い。

冷蔵庫の中の麦茶を頼もうと、口を開きかけたところで。


「なんか飲むか?」

『・・・冷蔵庫の中。麦茶、取って。』



言い終わる前に立ち上がってキッチンへ向かう背中に。


話そう、と思う。






「知り合いで、いたんだよ。過呼吸の子が。」


戻ってきた航大の手には、ガラスのグラスと
透き通った茶色の水。


「その子の彼氏________が、俺の友達なんだけど。そいつが、よくああやってたから。」

『そっか・・・。』



だから、すぐに。
自分の深い呼吸を見せたんだ。




「よく出るのか?初めて見たけど。」


まるで風邪の具合みたいに。

何てことないように、聞くから。
何てことないように、思えてくる。

澄んだ麦茶の冷たさが、焼けた喉を落ち着かせた。





『ううん。久しぶり。自分でもびっくりした。』

「いつから?」

『3年、前。けどこういう風になったのは何回かだけだよ。』




いつの間にか握りしめていたグラスを。

航大は私の両手から抜き出すと、残っていた麦茶を飲み干した。

きっと、何か。
察知した、横顔。



「そうか。」

『さっきの人ね。』



話そう、と思っていた気持ちが。
話したい、に変わっていた。



『付き合ってた人なの。3年前に、別れた人。』

「あいつが、怖い?」



私の言葉じりに重なるくらいの速さで、返された言葉に。

それが、一番聞きたかったのかもしれたいと思う。





『ううん。私が怖かったのは、』


やっぱり、航大に話したい。


『翔さん、じゃなくて。

___________翔さんがいなくなったときの、自分なの。』


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