恋色流星群
12#瀬名side
一度も止まらずに駅まで走ったら。
口の中は血の味がした。
それでも浮かされた身体は止まれずに、改札を飛び抜けて終電が訪れるホームまで駈けおりる。
「最高新記録・・・!」
信じられないほど“早いタイム”で、駅まで着いた。
大きく息を整えながら、震える手で携帯を取り出す。
どうしよう。
確かに、我ながら最近はいろいろがんばってるなと思ってたけど。
こんな大それた夢、寝てる間も見たことなんてなかった。
直生さんが今日も明日も素敵だったら、私はそれでよかったのに。
「理沙さん、出ないっ・・・!汗」
繋げてくれない発信画面に、焦れて画面を落とす。
見上げたホームの時計は滲んで見えて、馬鹿な私はもう泣き始めてることに気づく。
夜風で前髪はザンバラに立ち上がって。
引っ詰めた後ろ髪だって、きっとボロボロに乱れてる。
唇は、切れそうなほどガサガサ。
いつから、こんなに荒れてしまってたんだろう。
走ってくる間かな、それとも彼の目に触れてしまったかな。
「うっ・・・、くっ、」
溢れ出す感情は、もう手に負えなくて。
堰を切ったように、涙と嗚咽がこみ上げてきた。
満員の終電が訪れる前に、この状態をどうにかしなきゃ。
大の大人なのに、恥ずかしい。
こんな私、私は本当に恥ずかしい。
そう思う、ほど。
涙を止めなきゃと焦る心と裏腹に。
泣けて泣けて、仕方ない。
ふと目に入った指先は。
ささくれ立って、ボールペンのインクで赤、青、黒、と汚れていた。
ていうか。
どうしたら、こんなに汚せてしまうんだろう。
どうして、こんな汚れた私を。
たくさんの人の中から、見つけ出してくれるんだろう。
いつも変わらない、強い光で。
簡単に、私の行き先を示してしまうんだろう。
私は、今週末。
直生さんと、デートをする。
「日曜日、連絡待ってる。」
ほんの10分前。
閉じていく扉の向こうで、彼は。
そう言って、私のこれから一週間を束縛しきった。
嗚呼、もう。
一生分の運を、使い果たしたかもしれない。
齢20代半ばに、して。
好きで、好きで、好きで。
毎日懲りもせず、私はあの人が好きで。
踊る背中を見たときから。
片思いが止まらない。
直生さんの、そばにいたい。
直生さんの、笑った顔が見たい。
私の欲求には、もう。
あの人以外が存在できない。