恋色流星群
月曜から、終電コースか。
一瞬で定時を過ぎ23:30を回った月曜日を終えて、暗いホールで首を回しながらエレベーターを待った。
企画部のフロアには、まだ先輩が数人残っていたけど。
私の家の距離で毎度タクシーでは、さすがに承認も下りないから。
今日はお先に失礼することにした。
夕飯は、さっきコンビニのおでんを食べたからいいとして。
シャワー浴びるの、ダルいなぁ・・・
明日の朝でもいいかなぁ・・・。
会議でちょっと、髪がタバコ臭い気もするけど。
あ、日中外出もしたから、汗もかいてるよなぁ・・・。
もう、1日の疲れで足が棒みたいだ。
何もかも捨てて、一刻も早くベッドに倒れて寝てしまいたい。
こみ上げてきた大欠伸を、堪えもせず思いっきり吐き出しながら。
軽い鈴の音と共に降りてきて、ゆっくりと開いたエレベーターの扉をくぐろうとして__________
もう何万回目かの一目惚れに
飽きもせずに私を突き落とす
直生さんが、いた。
大きなサングラスに、ビッグサイズの白いTシャツ。
その上に、またがっふりしたサイズ感のデニムジャケットを羽織って。
黒い革のパンツに収めた足を軽く組むようにして、エレベーターの壁に背をくっつけて。
たぶん、サングラスの奥の目は私を見ていた。
まずい。
これは、久しぶりでありながら既にかっこよすぎて非常にまずい。
反射的に、私は。
踏み出しかけていた右足を引く代わりに右手を差し出して。
軽く、頭を下げた。
“どうぞ、お先にお行きください。”
心の中で、そう呟きながら。
直「いやいやいやいや!」
笑いながら、閉まりかけた扉を慌てて止めてくれる。
直「なに、乗ろうよ。笑」
ここまでされて、乗らなければ。
この疲れ果てた私はただの不審者になる。
逃げ出したくなるほど跳ね上がる心臓を、ぎゅっと手を握りしめて抑えて。
「あ・・・すいません。じゃあ、」
直生さんを連れて降りてきたと思うだけで、この小さな箱にはいい香りが立ち込めてる。
できるだけ、対角線上になれるように離れた場所を陣取って、私は「閉」ボタンを押した。