恋色流星群
秋の夜長の、カフェテラス。
現れたのは、家出少女。
『その荷物は…何かの合宿?』
「え?なんかおかしいですか?!」
上玉のワインを2本入れてもらって。
早上がりして駆けつけた、土曜21:00の表参道のカフェには。
『それって、スポーツバッグ?』
「はい、高校から愛用してます。バスケ部だったんで。」
愛しいあの子が、緊張の面持ちで。
右手と右足を、うまいこと同時に出しながらやって来た。
『バスケ部、似合うな~。
ていうかさ、何が入ってんの?異常にデカくないか?
あ、会社の荷物ならごめん。』
「えー…なんだろ、パジャマとか化粧水とか?
あ、会社の荷物は、前もって置いてます。荷物増えちゃうから。」
『もう十分増えてるし!
パジャマも化粧水も、うちの使えばいいじゃん!ww』
眉を寄せて、真剣にバッグを覗き込む姿が可愛すぎて。
我慢できなくて、ついに吹き出すと。
「…ああ!確かに!」
どれだけ何を、必死に考えて来たのか。
素直に目からウロコを落としまくる表情に。
私がどれだけ、瀬名ちゃんが好きかを確かめた。
直生さんとの“デート”の前日は。
理沙さんの家で、ミーティングをしたいというから。
『うーん、私はいいけど…。
前日は早く寝た方がいいよ、お肌のために♡
自分ちの方が、ぐっすり寝れない?』
「どうせ、家にいても寝れないと思う。
それなら、夜通し直生さんの話を聞いてください!」
瀬名ちゃんの場合、確かにそうかもとちらりと浮かんで。
何年かぶりの、パジャマパーティーを開催することにした。
『どれでも、好きなの使ってね。』
バスルームに案内すると。
「え、これは噂のオイル美容?!え、なんで化粧水の前に塗るの?!」
「これが噂の、ボディクリーム?!
わ、超いい匂い!!」
「え、なんでシャネルがコットン?!
なんでコットンにシャネルがマーク?!」
興奮してるのか、次第に日本語もおかしいし。
「噂」とはどこが出元だろうと気になったけど。
バスルームを忙しく動き回る姿に、呆れながらも微笑ましい。
「理沙さん、大変!」
『今度はなに?!w』
ホットワインを作ろうと、リビングに戻った私の元に。
瀬名ちゃんが、半泣きで駆けてきて握りしめていたものは。
「これ、ずっと使ってみたかったやつ…」
深い夜の眠りには欠かせない、ローズのシャワージェルだった。