恋色流星群
7#瀬名side
休日のオフィス。
もう見慣れた、そこで流れる雰囲気が嫌いじゃない。
平日と違って。
誰も来なければ、誰にも呼ばれない。
驚くほど集中できたり、簡単に行き詰まっていた頭がスポンと抜けたりする。
特に今朝は、理沙さんの極上味噌汁をいただいて出勤した。
あの人、料理もできるんだな。
男前なのに、可愛い。
美人なのに、距離が近い。
強いのに、知れば脆い。
会うたびに惹かれる。
存在自体が、才能な気がする。
要くんも七瀬くんも。
とんだ人に、堕ちたなと思う。
理沙さんはもう。
クライマックスの行方を知ってる。
だけど、本人がまだそれに気づいてない。
見間違えなければ、いいけど。
営業企画部フロアのセキュリティ解除をしようとして。
既に開けられた、解除済みのボタンの色と。
心当たりのある場所に、見覚えのある背中。
真っ直ぐ伸びて、壁一面の窓の外、大きな空を見てる。
よくあんな小さな頭に合うサイズがあったなと感心した、黒いハット。
「ちょっと、私の机に座らないでって言ってるじゃん。」
「おはよ。はい、ちんすこう。」
片側だけ上げる口元で、振り向いて笑う。
「ちんすこう?沖縄行ってたの?」
「うん。瀬名さん好きだったろ。
瀬名さんにしか買って来なかった。」
普通の女子が七瀬くんから聞いたら、完全に勘違いするであろう、こんな台詞。
だけど、四年の付き合いで私は。
反射的に、鳥肌を作る。
「私に何かご用ですか。
残念だけど、今日は超忙しいから無理だよ。
だいたい、別にこれ特別好きじゃないけど。」
紙袋を受け取って、中身を覗いて。
ふと、顔を上げると。
まだ机に腰掛けた姿勢を崩さないまま、食い入るように、私の顔を覗き込んでくる視線。
「なに?」
「______なんか、今日、」
可愛いね、とでも言うんだろうか。
そうでしょう、髪もメイクも理沙さんにしてもらった。
新しい化粧品を使うだけで、何となく顔を上げて歩ける。
自分もまだ女子だったと思い出した。
「あいつと同じ匂いがする。」
「なっ…!」
犬?!
その、妖艶に傾げられた瞳よりも。
言葉の端々に滲む二人の距離に。
そこから漏れる、いい香りの色気に。
「なんで赤くなんだよ。笑
あいつのとこ泊まったの?」
私は、虚しくも完敗した。