恋色流星群
episode7
1#航大side
顔を見なくなってから、二ヶ月も経っていないのに。
この人は、随分痩せた。
「なんで分かったの?」
悪戯に、上目遣いで笑う。
その表情は、初めて会ったあの日のようだと思った。
「そんなに、私と別れたかった?」
柔らかく微笑んだ口元が、アイスコーヒーのストローを離せば。
俺のとは違う、綺麗な丸が顔を出した。
「違うよ。」
初めて、人を愛したと感じさせた人。
「どうしても、会いたかったんだよ。」
年上のこの人に。
死ぬほど、憧れた。
沖縄の、熱を含んだ湿っぽい風が吹いて。
長い髪は、柔らかく舞った。
「航のそういうところ。本当、嫌い。」
「ごめん。」
「そうやって、私にすぐ謝るところも嫌い。
ここまで来て、なんでそんな言い方するのよ。
なんで、いつも悪い人になりきれないの。」
捨てられたくなかった。
傷つければ、怒らせれば。
簡単に、離れて行ってしまうような気がしていた。
俺が習得した、この人への接し方。
いつしか心よりも、顔色ばかり伺った。
おかげで、自分の心までも見えなくなり。
別の人を追うようになった自分の視線に、気づくのも遅れた。
「・・・ここは、謝るところよ。」
「ごめん。」
馬鹿ね、とため息をついて。
背もたれに、ゆっくりと腰をつける。
華奢な腕時計も、揺れるピアスも。
俺の知らない何もかもが、海を見つめる横顔によく似合った。
「私、航の家に行った時チョコに会ったんだけど。
知ってる?あの子、私に酷いこと言ったのよ。
番犬?って感じで。目釣り上げて悪い顔しちゃって、もう大変。
怖かったわ~・・・。」
その、割には。
どこか懐かしそうに、伏せた瞳を細める。
「ああ、私はそんなことを言われる、酷い人間になったんだなぁって。
やっと、理解したわ。」
あの日チョコが、酷いことを?
翌朝、与えたコーンフレークをケロっと食べて。
ニュースを見ていた背中が思い浮かんだ。
「レオンを返したときね、決めたの。
もう一度航が私を探したら、もうやめてあげようって。
ただ、一つだけやらせようって。」
「やらせる?何?」
「私が、こんな男、もうだめだって思うくらい。
酷いことを言ってよ。」
海を見ていた、瞳が。
俺にぼんやりと向き直った。
空虚な、瞳。