恋色流星群
2
膝を抱えたまま、ソファで三時間過ごした。
あまりに動かない、私に。
蜂のぬいぐるみを振り回して、必死に誘っていたレオンも。
とうに諦めて、隣で寝息を立てる。
最終整理のついた、頭と。
微かな確信を持って、深呼吸をする。
アンティークのローテーブルの上には。
ほとんど口をつけないまま。
すっかり冷めた、レディグレイの琥珀色。
翔さんの置いていった航空券入りの封筒と。
銀色のハサミ。
翔さんなら。
なんでもっと早く、気づかなかったんだろう。
もう何度目かの深呼吸の、後で。
封筒に、ゆっくりとハサミをいれる。
指先が確かめる手触りに。
間違いないと、確信が色づく。
『やっぱり・・・。』
現れたのは。
明後日金曜日の便、なんかじゃない。
成田からニューヨークまで、何度だって変更が可能な。
“オープンチケット”だった。
本当に、今ニューヨークにいるなら。
向こうはAM4:00。
一番気持ち良く、寝てる頃だよね。
叩き起こしてやる。
出るまで、鳴らす。
意気込んで座り直したら、レオンが慌てて立ち上がった。
“・・・もしもし。”
『やられた。さっき、気づいた。』
“まじで。遅かったな。笑”
『悔しいけど。
おかげですっきり全部、決められました。』
最初からオープンチケットだと分かっていたら。
期限のないものだと知っていたら。
私きっと、ずるずる逃げてた。
全ての可能性がいつまでも手にあると過信して。
決断から、目を逸らしてた。
私の操縦士で。
この人を超える人は、やっぱりいないと腑に落ちてしまう。
『私、ニューヨーク行くよ。』
“・・・は?”
『ありがたく、行かせてもらう。
チケット勿体ないし。』
“本気で言ってるのか?”
『うん。SATCのロケ地回って、シカゴも観る。』
返事をしなくなった翔さんに。
電話の向こうの、遠い息遣いに。
この人はもう、分かってる。
胸が詰まる。
けど私。
絶対、泣かない。
『仕事が軌道に乗ったら、また呼んで。
いつかフラッと、遊びに行くから。』