恋色流星群
4
木曜が休憩タイム、だなんて。
もはや、都市伝説だな。
VIPルームへと続く階段を上りながら。
『関根さんのところは、アヤちゃん入れてね。
丸田さんのところは、楓さんにお願いしたい。
林さんは、』
「うるさいわね~、分かったって!
あんたもう今日終わりでしょ!
おとなしく引退しなさい!」
『ひどいなー、一週間休むだけじゃん!
引退とか人聞き悪いんですけど!』
つい先週まで、「捨てないで」なんて言ってたスキンヘッドの大男。
女心は秋模様って、このこと?
「そんなことよりもさ、明日から会えないから聞いとくけど。
日曜の待ち合わせの時間、分かってるよね?!」
『しつこいな~、13:00でしょ?
分かったって、何回確認したら気がすむんだよ。』
上りきった、階段の上で。
リップを取り出そうと、アンテプリマのビーズクラッチを覗いたら。
「はい、あとコレ!!
ぜっったい、日曜までに見なさいよ!悪いこと言わないから!」
むんず、と。
突き出されたのは、小さな紙袋。
『なんだこれ・・・?』
手元は、CHANELのアリュール グロスをいじりながら。
首だけで、中を覗き込む。
「DVD。明後日までに予習しときなさい。」
イメージは宇宙?
煌びやかな青いパッケージ。
微かに、見える。
“planet”の、白い太文字。
『やだ~。どうせ日曜聞くんじゃん。
飽きちゃうよ。』
うるうると濡れたアプリケーターから、ミルキーコーラルの液が飛ばないように。
少しだけ、背を反らす。
「あんたのために、言ってんのよ。
見たことないんでしょ、歌う姿。
免疫つけとかないと。」
『・・・あるよ、ちょっとだけど。』
ハワイで、ちゃんと。
陽斗くんは、私の目を見ながら歌った。
「あんなの、見たうちに入らない。」
葵ちゃんが扉に触れようとしたら。
僅差で中から顔を出したボーイくんが、私を認めてホッとしたように笑った。
「理沙さん、倫介さんお待ちです。」
「はい、これ持って帰って。」
葵ちゃんの分厚すぎる手の平が。
私の手に、無理やり袋を握らせる。
「あんた、分かってないだろうけどね。」
乱れた髪を、片側に寄せる。
ボーイくんの開ける、VIPルームの扉を潜りながら。
横切る耳に、その日届いた葵ちゃんの最後の声。
「七瀬くんだって、漏れなくやばいのよ。
舐めてたら、あんたなんて。
簡単に心臓盗られるよ。」