恋色流星群

9#チョコside




バクステからモニターを覗いて。
見つけた顔に、思わず口元が緩んだ。

隣の女の人に、フラッグを振って見せて笑ってる。
楽しめてそうだな、よかった。


珍しく、ほんの少しだけ。
ピリッとした感覚が、芯に走る。
気持ちのいい、緊張感。







あと、もう一人。
まだ誰も知らないクライマックスを飾る。
流れ星のような、主演女優。





__________________いた。




残念ながら、見つけたのは彼女ではなかったけれど。
葵さんがいる。隣の席が空いてるのを見ると、多分あそこなんだろう。



「航さん、来てるよ。」



目を閉じて、最後のヘア直しを受けてる航さんを振り返るけど。


「見る?席、分かったよ。」

「いい。」


少しだけ開けた唇から、たった一言。

返ってきたのは、期待通りのつれない返事だった。



この広い会場の、どこかしこにも。
声を届けるつもりなんだろう。





“らしい”な。
最後まで、変えなかった想い方。
自分のことになると鈍感な理沙子に届くには、少し時間がかかったけど。


二人だけしか知らない、幾つもの夜を越えて。
お互い、流れ星のように惹きあったくせに。





「チョコさん、お願いします。」


航さんと入れ替わりに呼ばれる。
すれ違う、自由になった航さんは。
本当にモニターに見向きもせず水を取りに行った。





メイクさんの肩越しに、陽斗さんがイヤモニをいじりながらやって来るのが見えて。
いつものように、二人は軽く肩と肩をぶつけて、背中を叩き合った後。

航さんの背中を背景に、強い眼差しで客席を映すモニターを覗く、陽斗さんの横顔は。

本当に、長い映画のラストシーンのようだった。

サングラスで視界を覆った背中の男が、主役だったのか。

間違いない場所に置いた彼女を、隠すことのない熱い瞳で探す男が、主役だったのか。





この夏の夜空を駆けた、三つの閃光が。
彼女の手によって、いま解かれる。






陽斗さんの視線が、画面の中をくるくると動いていて。

葵さんって、分かる?
あの人の隣の席が、理沙だよ。


そう、声をかけようかと思ったら。
一点を見据えて、動かなくなって。
さらに熱く、燃えたように色づいた瞳に。


もう、このラストシーンには、三人以外の登場人物は存在しないことを。
今更ながらに、思い知る。
 


 



見届けるよ、理沙。
俺は俺の、君が与えてくれた役の場所から。


君の選んだラストシーン。

君の親友は。


俺だけで充分だ。
 

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