恋色流星群
意外にも、この後仕事が入っているというカナちゃんは。
「少し遅れる」と連絡をしてきた倫くんを待つことができず。
『気にしないで。』と笑う私に、散々謝りながらお店を出て行った。
「もっと早く彼と出会えてたらよかったのになって思う。それくらい、今が楽しくって。」
少し拗ねたように。だけど、幸せそうに、ふんわり笑ったカナちゃん。
出会う時期は、そんなに大切じゃないよ。
どんなに出会えるのが遅くなっても。その後結ばれたなら、十分だよ。
この世界には。
どんなに早く出会えていても。どんなに、2人にしか知らない顔があっても。
いつまでも近づけない、2人もいるから。
降り出した雨に濡れる中庭の紫陽花を見ながら、一人ぼんやりとそんな事を思っていた。
倫くんが現れたのは、カナちゃんが出て行ってから30分ほど後のことだった。
『はろー、サタンさん。』
「すみません、いろんな意味で。笑」
苦笑しながら、仲居さんに自分用のノンアルコールビールと。
私用に、一番高いシャンパンをグラスで注文した。
『今日まで勝率100%だったかもしれないけど。
私だって、無理なものは無理だからね。』
絶対にひるむものかと決めていたのに。
甘い泡が口の中に広がれば、つい心がほどけてしまいそうになる。
そんな自分を鼓舞する気持ちで、倫くんを睨んだ。
「分かってるよ。今日は、お願い事をしに呼んだわけじゃない。」
『いやいやいや、カナちゃんまで手配して何事ですか。』
「仕事の依頼をさせてほしいんだよ。」
倫くんが、運ばれてくる料理にも手をつけないまま。
睨みつける私を真っ直ぐに見つめ返して告げたのは。
予想を遥かに超えた。
超、難題だった。
サタンが、本性を見せる。