恋色流星群
マンション地下階の駐車場。
エレベーターを飛び降りれば、案の定、あの男が。
降りた車のヘッドライトを背後で光らせて、やって来るところで。
『航大!』
コンクリートに固められたその空間で響いた、私の声に顔を上げて。
サングラスの下の口元を、柔らかく緩める。
「なに、待ち切れなくて迎えに来てんの?」
飛びついた私を受け止めて、愛しそうな手つきで私の前髪を上げる。
うっすら香る。シャネルのnoir。
『っ、なんでっ、・・・!』
「よしよし、とりあえず上がろうな。」
『違うっ、なんでっ、知ってる、のっ・・・』
「・・・は?え、泣いてんの?!」
膝が震えて、もう立っていられなくて。
腕を掴んで顔を覗き込もうとする航大を捩って、その身体に抱きついた。
溢れた私は、壊れかけ。
愛しくて苦しくて、もう決壊寸前。
だって、あれって。
そうでしょう?あれって。
「落ち着け、ちょっと、」
『なんでっ、NY行きのチケットっ、航大も持ってるのっ・・・!』
どうして、NY行きのオープンチケット。
購入したdateは、先々週。
そんなものが、航大の部屋にあるの?
ああ、と。鼻にかかった笑い声と。
私を抱き締める左手と反対側で、エレベーターの呼び出しボタンを押す音。
「なんだっけ、お前のとこの店の。
・・・ミカちゃん?だっけ。」
『・・・そんな子いねーよ。アヤ、ちゃん?』
「あ、多分そう。その子からさ、先々週、くらいか?すげぇ剣幕で電話かかって来て。」
『アヤちゃん?!なんで?!』
「知らねぇよ、俺も後輩の電話番号だったから普通に出たんだよ。
そしたらその子で、もうすげぇ状態で泣き喚かれてさ。」
アヤちゃんの、背中に散った無数の紅い花弁が。
フワッと視界に、甦った。
「“理沙さんがお店辞めてNYに行っちゃう、お前のせいだから責任取れ”とか言われて。笑」
『、なんでっ・・・』
「だから知らねぇって!笑
いいから、もう泣くな。」
違うよ、私が聞きたいのは。
なんで航大が、翔さんから誘われたNYのことを知ってたか、なんかじゃなくて。
見上げれば、サングラスの奥。
困ったように私を見下ろす、柔らかさ。
あまりの愛しさに。
上がるばかりの、息。
だめだ、私。
もう、どうしようもなく、深く。
『なんでそしたら、あんたもチケットを買うのよっ・・・!』
この男が、好き。
チン、と音を立てて開いたエレベーターは。
動かない私たちを見て、ゆっくりとその扉を閉じた。