恋色流星群
暗く、殺風景なエレベーターホールで。
「言ったろ。」
温かい親指が、ぼろぼろに濡れた頬を、優しくなぞった。
「何度でも、迎えに行ってやるって。」
バカじゃないの?、と。
憎まれ口を叩きたいのに、言葉にならない。
また溢れていく視界に、身体から力が抜けそうになったら。
いつものように、大きな両腕が。
ぶれずに私を、抱きとめた。
「たださ、俺これからしばらく忙しくなりそうだから。
これまでみたいに、すぐにどこにでも、ってわけにはいかなくなると思う。まぁ、それでも探しに行くのは行ってやるけど。」
人を家出犬みたいに言わないでよ_____________
さすがに、カチンと来たその言種に。
顔を上げたところで、もう一度エレベーターの扉は開いた。
真新しい蛍光灯の光で、半分だけ照らされる。
世界で一番の、恋人の微笑み。
「だからできるだけ。俺の側でいい子にしてろよ。」
甘く言い聞かせるような、その声に。
私の身体は、完全降伏の意を知った。
エレベーターを降りて、私たちはもう、何も話さないまま。
足早に手を引かれて部屋を目指した。
玄関の扉が閉まった瞬間、車のキーを落とした音と。
縺れるように始まった、キスの嵐。
焦れるように痛いくらい、唇を求めた。
いつの間にか抱かれて浮いていた身体。
明るいリビングから、暗いその部屋に流れる景色の中で。
器用に唇だけを与え続けてくれる仕草に、駆け巡る熱は上がるばかりで。
どんな隙間も惜しくて、ただギュッと彼の首元にしがみついた。
過去も、痛みも、未だに直らない、くだらない強がりも。
私の纏っていた何もかもを、暗い部屋で彼が剥がしていく。
大きな手に、ただ私は私を任せる。
緩く反動がつくくらい、柔らかなベッドへ性急に倒されたら。
今度は、彼の持つ全てが、私を埋めていく。
切なくて、身体が千切れそう。
愛しくて、身体が足りない。
引き寄せた頭は、ほんのり煙草の匂いがして。
疼いていく身体の下の方が息苦しくなりながらも、ぼんやりする頭の端で。
誰かが航大の近くで煙草を吸ったことが、嫌だと思った。
今までで最上級に。
航大が大事で、堪らない。
抱き起こされて、載せられて。
グラグラする意識と身体に、必死でついていこうと二つの手の平に縋っている時。
「すげぇ、綺麗。」
それは、聞こえた。