恋色流星群
19♯陽斗side
よくもまあ、こんなにきれいに入ったな。
渡されたスケジュール表を眺めながら、眠気ざましのコーヒーを飲み込んだ。
嫌味ではなく、俺は心底マネージャーである岡ちゃんの力に感心していた。
もともと少なかったはずのつかの間のオフは、まだ削ることができたのかと思わせるほど上手く整理され。似たようではあっても、一つ一つが確実に意味を持つ仕事が、きちんと入れ込まれていた。
追い風を感じる。
今までの速度とは、比べ物にならないほど。
移動の車の中で書くよう渡された、雑誌のアンケートに目を落とす。
女子中高生向けの雑誌なんだろうな、恋愛関係の質問が多い。
この手の質問には何億回も答えてきたから、スラスラと答えを書きこんでいく。
また同じこと言ってる、とがっかりされないよう、上手く言い回しを変えながら。
隣を見ると、上を向いて口を開けたまま爆睡している、チョコ。アンケートは白紙のままだが、しっかりと手に握られていた。
俺よりもずっと、多岐に渡る分野に挑戦して、チームの可能性を広げてくれているメンバー。
歌を極めたい、という思いに専念させてもらえている環境に、改めて感謝した。
最後の問い、ありきたりな「好きな女性のタイプを教えてください」に。
初めて、“好きになった人がタイプです”と書きこんで、助手席に座るマネージャーに渡す。
「これ書けた。渡していい?」
「ありがとうございます、要さんも少し寝てください。」
「ありがとう、岡ちゃんも寝てよ。」
“好きになった人がタイプ”という言葉、これまで目にする度に、つまんない答えだなぁと思っていたけど。
今なら分かる。
こう答えていた人たちは、みなきっとその時想い人がいたんだ。
ただ一人を思いながら、その人を言葉にする代わりに、こう言い回していたんだろう。
目を閉じれば、無意識に蘇るあの香り。
甘い微睡みに、俺を誘う。
いつもほんの少しの痛みを伴うのは。
その香りが連れてくるもう一人に
胸が騒ぐから。