恋色流星群
5
3杯目のシャンパンのお代わりをお願いして、思いっきり伸びをした。
暗い機内は、映画を観る人やアイマスクをして眠る人や。みんなまちまち。
あいにく、好みの映画は見つからないし。昨日はタイミング悪く朝方サングリアが効き始めて、結局あれからお昼まで寝てしまったから。
この静かで快適な機内でも、眠くもならなかった。
羽田を深夜に出発して、“昨日”のホノルルにお昼に到着。
日付変更線をまたぐのって、ロマンティックな気がして好き。
この機内の人はみんな、昨日に向かっている。
昔、航大が海外から電話をかけてきたことがあった。
私は上客のアフターをこなし、ようやく寝入ったAM4:00。
しつこく携帯を鳴らしたうえ、浮かれた声で
「理沙子は明日にいるんだな」なんて、意味不明なことを言うから。
『寝ぼけてんじゃねー』と電話を切った。
翌日(?)目覚めた私に届いていた、一枚の自由の女神。
航大の居場所と、言葉の意を知り。
日付変更線の向こう。昨日から明日につながった電話で、可愛いこと言ってたんだなぁと。
ほんの少しだけ、心臓が鳴いた。
そそられない映画のラインナップと、変わらない真っ暗な景色に。
重い腰をあげて、倫くんから渡された音源を聞いてみることにする。
今回の新曲と、「これまでにリリースしたアルバム」とやら。
家を出る直前に思い出して、慌ててiPhoneに落としてきた。
夏休みの宿題も、ラスト3日で手をつけるタイプだったからなぁ・・・
CAさんから4杯目のシャンパンを受け取り、軽く会釈しながらイヤホンを耳にはめる。
聞きながら寝れるかな?バラードだといいな。
「再生」のボタンをタップして。シャンパンを口に含み、軽く目を閉じて。
ブホッ!
私は思いっきり、シャンパンを吐いた。
何これ。
要さんの声?これは航大だよね?
航大は知ってたけど、要さんも歌う係だったの?
待て待て待て、甘すぎるでしょ。
何これ何これ何これ。
耳から入る音が脳内で繰り広げる光景に、私は全くついて行けない。
あの要さんから、こんな大きな声が出るの?
航大、なんちゅーエロい声出してるの?
目を閉じると、2人の声に意識が高く高く連れて行かれる。
やばい、息の仕方、忘れそう。
「手前みそだけど、うまいよ。」
自信ありげに笑う倫くんに
『私、上手い下手いも分からないんで。』
と悪態をついた。
いくら私でも、分かる。
この2人は多分。
めちゃくちゃ
すごい________