恋色流星群
「帰る前に、熱測ってもいいですか?」
『うーん、けどもうそんなないと思うな・・・』
体温計が知らせたのは、彼の短くとも完璧だった看病の結果。
“37.7℃”
「ほんとだ、だいぶ下がってる~!」
瀬名ちゃんが、嬉しそうに目を細めた。
「理沙子さん、夜中薬飲みました?私の剥いたフルーツも食べてくれてたし。えらい!」
『あ、や、薬やフルーツは、要くんが。』
瞬間、瀬名ちゃんの顔色が曇る。
「ああ、要くんが・・・」
何か、考えてる顔で黙った瀬名ちゃん。
私も、こういうこと人に聞くの本意じゃないんだけど。
今の私には、情報が少なすぎて。
今にも、とって喰われそうで。
いろんな意味で。
参考情報の一つとして、だったらいいよね。
意を決して口を開こうとしたとき。
「要くんって、どんな人なんですか?」
私が今まさに聞こうとした言葉そのままを、瀬名ちゃんから浴びた。
穏やかで、いつも感情が安定していて。
いい意味で、我を通すことがなくて。
“天然で純粋”なのに。仕事には誰よりストイックで。
表舞台では、大抵他のメンバーを先に立たせて。自分はその後ろでニコニコとフォローに回る。
うちのチームの中でも、一番周りに気を遣える、“優男”。
そんな、無害キャラだと思っていた要くんが。
理沙子さんが倒れた時から、人が変わった。
医務室から部屋まで、他のスタッフ誰にも理沙子さんを触らせることなく。自分一人で理沙子さんを運んだんです。
ここでも、何度も部屋に戻るように行ったのに、全然言うこと聞かなくて。
挙げ句の果てには、一人でここに残ってたなんて。
要くんにも自我があったなんて、5年の付き合いですけど知らなかった・・・
『自我って。笑』
瀬名ちゃんの独白。言葉選びに思わず吹き出す。
「けど、要くんのイメージって本当にこんな感じだったから!
一番、無茶しない人だと思って安心してたのに。こんな一面があったんだって、びっくりというか新鮮というか。」
瀬名ちゃんの素まつ毛は、ゆっくりと瞬いた。
「あんな要くん。誰も、まだ知らないと思う」
5年の付き合いの中で瀬名ちゃんが得ていた彼の姿は、初めて会った夜から一昨日まで、私が得ていた彼とほぼ一緒。
甘さと表裏一体だった危険を見てしまったのは私だけ…?
なんだ?
この優越感、みたいな感情。
「・・・けど、ちょっとかっこよかったかな。」
『え?』
「理沙子さんをあんなに大切に扱ってる姿に、萌えました。笑」
よかった、見ていなくて。
久しぶりに感じる心臓の動きが、くすぐったくてたまらない。