恋色流星群

ドクンドクンと。

自分の鼓動が、耳に響く。



「理沙子。」



名前を呼ばれた次の瞬間、今度は腕を引き寄せられたと思ったら。


あっという間に、形勢逆転。

私は簡単に、航大の下で組み敷かれていた。




暗いベッドルームで

リビングから漏れる光に

航大の顔が半分だけ照らされる。




私の知るこの人は

こんな顔をしてたっけ?







『な、なんか今日変だよ?』



透ける瞳は、何も答えない。



『急に来て、いろいろやって、何なの、ほんとに。』



そんなに優しいリズムで、髪を撫でないで。




『要くんも、航大も、ほんとおかしい・・・』





空が一瞬、明るくなる。

カッと照らされる、航大の顔。





「陽斗?」




ドンという大きな音と。

流れる、パラパラという音。

外で花火があがってると、頭の片隅で気づく。





時折赤く照らされる

眉を寄せた表情に





本能が、危険を察知する。





「なんで陽斗が出てくんの。」


『いや、別に・・・?』






“別に”

言い訳の、常套句。





「陽斗と、なんかあったの?」


『なんもないよ。』




とにかくこの体勢を抜け出そうと、右手で胸を押していたら。

鮮やかに手首を捕まれ、柔らかいベッドに抑えつけられる。






「じゃあ、陽斗になんかされたの?」









蘇る。

私を見つめる、甘い眼差し。

肩を抱く、右腕の強さ。

頬を包む、手の平の熱。

丁寧に私の名前を呼ぶ

甘い音色。








「理沙子。」


見上げた航大の顔に、息を飲む。

初めて見る、“男”の顔に

体がすくむ。






「言っておくけど」






こんな顔、見たことない。







「今は俺のことだけ、考えろ。




お前の一番は

いつだって、俺なんだよ。」









私の一番が

いつだって、航大?


そんなの誰が決めたんだよ________________





いつもなら、簡単に言い負かせそうなことが。








甘い催眠術のせいで。



声が、声にならない。









微かに傾けた角度で

近づいてくる綺麗な顔に







すんでのところで

顔を背けるわけではなく

目を閉じてしまったのは









甘い催眠術のせいじゃない。









それはただの、本能。
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