恋愛じかけの業務外取引
忘れかけていた昨夜の記憶が一気によみがえる。
私は酔って堤凛太郎を殴ってしまっただけでなく、その後潰れて復活できず、結局彼に自宅まで送らせてしまったのだ。
「あああああああ……」
彼の面倒を見るという約束をしてしまったが、一体何年奉仕すれば許してもらえるのだろう。
自責の念に駆られ、右手をグッと握る。
昨夜彼を殴った時に負傷したところがズキンと痛んで、私はまた自分の罪を思い知らされた。
今日はもう心身共に復活できそうもない。
昨夜の男に興味津々のユリは、私のベッドに乗ったままひとり勝手にテンションを上げる。
「マヤ姉彼氏とか何年ぶりだっけ」
「付き合ってないから」
ちなみに彼氏は3年前に別れて以来縁がないが、答えないでおく。
「隠さなくていいって。マヤ姉だって甘えてたじゃん」
「はあっ?」
甘えてた? 私が? あの人に?
「あの人、マヤ姉をここまで連れてきて。ベッドに乗せるときなんて軽々お姫さま抱っこしてたし、案外力持ちなんじゃないかな」
お姫さま抱っこ……。
「マジか……」
ここはアパートの2階だ。
彼は意識朦朧としている私をタクシーに乗せ、降ろし、2階まで一緒に上がって、ベッドまで運んでくれたということか。
「おやすみって、おでこにチューしてたの見ちゃったし」
「はあっ? ちょっと待って、それ、どこまで本当の話?」
ユリお得意の冗談だよね? お願い、そうだと言って。
「全部ほんとだよ?」
「あああああああ……!」
もうダメだ。
私もう、堤さんにどんな顔をして会っていいかわからない。
会社にとって大事なビジネスパートナーなのに……。
ていうかおでこにチューって、なんで?