恋愛じかけの業務外取引
「お疲れさま。作業中にごめんね」
「……いえ」
愛想のない返事。
中のデスクで、紙の表とパソコンに集中し、こちらには見向きもしない。
いくら作業中だからといって、こんな態度を取られたことはない。
「フェア中にテレビの取材が入ることになったから、早めに打ち合わせておきたくて」
「ああ、そうですか」
なにか理由があるのかもしれない。
でも、仕事中にその態度はないのでは?
偉ぶるつもりはないけれど、一応私は彼女にとって上司にあたるのだ。
業務が円滑に行えるようお互いに気を使うのが社会常識。
私は腹の底に溜まっていく苛立ちをグッと抑え込み、無理に笑顔をキープする。
「今日はなんだかイライラしているみたいだね。なにかあった?」
できるだけ優しく尋ねたが、彼女は私をチラリと一瞥して、あからさまにため息をついた。
これはもう……怒ってもいいレベルの失礼さだと思う。
「菜摘ちゃん?」
「山名さんって、イズミの堤さんと付き合ってるんですか?」
堤さんの名が出て、思わずドキリとする。
「え、なに、急に」
「質問に答えてください」
「付き合ってはいないよ。それがどうかしたの?」
合鍵持ってるしキスはしたけどね、とは言わないでおいた方がよさそうだ。
菜摘はマウスをカチッと鳴らし、座っている椅子を回転させてこちらを向いた。