恋愛じかけの業務外取引
どうやら彼女の弁論は終わったらしい。
くどくど続くのを覚悟していたが、案外短かった。
私が怯むこともうろたえることもしないからおもしろくないのか、彼女は余計に腹を立てたようで、ますます表情が険しくなっている。
ずっと「かわいくてイケてる女の子」として生きてきた彼女は、きっとこれまでもこのようにして恋敵と戦ってきたのだろう。
そして私にはまったく効果がないことを知らずに、同じ方法で戦おうとした。
……いい根性してるじゃない。
部下にナメられてしまえば私自身の信用や品格に傷がつくし、ビジネスにも影響が出るだろう。
ここで負けたら今まで築き上げてきた『姉御山名』のブランドが廃る。
「菜摘ちゃん、言ってることがメチャクチャ。どうして私が堤さんとデートすることを菜摘ちゃんに遠慮しなきゃいけないの?」
私は胸を張って腕を組み、長身とヒールを活かして高圧的に彼女を見下ろした。
「私も堤さんに気があるからです。不平等じゃないですか」
彼女も目と眉をつり上げ、持論を主張。
「わけわかんない。菜摘ちゃんこそ、この間堤さんを誘って断られてたよね? それは抜け駆けじゃないの?」
それで上手くいったところで、私に遠慮なんてしないくせに。
「それはっ……! でも私、山名さんが堤さんに気があるだなんて知らなかったし」
「正々堂々と勝負なんて言ってるけど、自分が堤さんに相手にされてないのに、私が彼と仲よくしてるのが気に入らないだけでしょう? ただの妬みじゃん」
図星だったのか、菜摘は下唇を噛み視線を逸らした。