恋愛じかけの業務外取引
「彼とデートしたければすればいいと思うし文句もないけど、誘いにOKもらえる前提で話せるのスゴいね。よっぽど自分に自信があるんだね。うらやましいな」
「バカにしてるんですか?」
「そうだよ。菜摘ちゃんがバカみたいなこと言うからバカにしてる」
我ながら、ヒドい言い方だ。
醜い女の争いなんてヘドが出る。
私だってこんなケンカ、買いたくない。
でも私にだってプライドがあるのだ。
「なっ……性格悪すぎ! そんな人とデートさせられた堤さんがかわいそう」
かわいそうって……私、誘われた側なんだけど。
実に不毛な戦いだ。
そろそろたたみかけて終息させなければ。
「私とのデートは罰ゲーム扱い? この前から気になってたけど、菜摘ちゃん、自分との食事やデートが堤さんにとってご褒美みたいな言い方するよね」
顔を引きつらせた菜摘は震えた声で言い返す。
「そんな言い方、してません……」
語尾の語調が弱くなったのは、否定しきれなかったのと同じだ。
彼女が自分に自信を持っており、男性に対して少し高飛車なところがあるのは、彼女を知る女であればみんなが知っている。
本人にも自覚があるのだろう。
「言っとくけど、堤さんの方から誘ってくれたの。自分の妄想を真実だと思い込んで人を悪者にしたあげく、バカにするような女に、性格が悪いだなんて言われたくないね」
菜摘は再び下唇を噛んだ。
「なによ……もうオバサンのくせに」
蚊の鳴くように小さな暴言は、広い心で聞こえないふり。
菜摘もこれ以上私を責めても無駄だと察したようだ。
私は息をつき、声のトーンを落ち着かせ、本来の目的のために言葉をかける。
「気が済んだら、そろそろ仕事しようか」
「……はい」