恋愛じかけの業務外取引




「はぁ、自己嫌悪……」

呟いてデスクに突っ伏すと、上から松田の声が降ってきた。

「どうしたんですかぁ?」

頭をデスクに置いたまま、顔を松田の方へ向ける。

彼女もどちらかというと、菜摘のような女子ヒエラルキーの上位層にいるタイプである。

菜摘ほど気は強くないが、下手をすると彼女ともあのような争いをする羽目になるのだろうか。

「誰かを守るために戦うのはいいけど、自分のために戦うと後悔するんだよね」

自分がもっと我慢すればよかったかもしれないとか、あれはちょっと言い過ぎたとか、いろいろ考えてしまうのだ。

落ち込む私を見て、松田はクスクス笑う。

「山名さん、今度は誰とケンカしてきたんですかぁ?」

「今度はって、いつもケンカしてるみたいに言わないでよ」

「ケンカってほどじゃないですけど、山名さん、いつも誰かと戦ってますよね」

松田が言っているのは、仕入れ先のメーカーや商社のことだろう。

中にはうちのような女ばかりの中規模小売業者を軽視している会社もあり、不躾な態度でいい加減な取引を持ちかけてくる担当者もいる。

もっと悪質な例でいえば、恋愛感情を利用してうちに不利な取引を強引に取り付けられたこともあるらしい。

そういう輩と対等にやり合える女子社員を私以外にも育成しなければいけないのだけれど、なかなかうまくいかない。

「私はもう誰とも戦いたくないよ」

とは思うのだが、そうもいかないのが現実である。



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