恋愛じかけの業務外取引
堤さん宅の最寄り駅で電車を降り、途中にあるスーパーで材料を買って、当たり前のように合鍵を使って部屋の中へ。
明かりのスイッチの場所はもう感覚で覚えている。
数日ぶりに来たこの部屋はまだあまり散らかっていない。
流し台に洗っていない空き容器がふたつあるが、先日の肉じゃがと白米だろう。
おいしく食べてくれただろうか。
あの日の彼の幸せそうな顔を思い出して胸がキュッと詰まる。
そのあとにキスをしたことも思い出し、体が熱くなった。
堤さんといると、愛されている錯覚に浸ってしまう。
これで明確な言葉が聞けたら、きっと天にも昇るほどの幸福があると思う。
私は利用されているだけであって愛されているわけではないから、そんな幸福、期待するだけ無駄なのだけれど。
もし、万が一彼も私を好いてくれているのであれば、お互いにうぶな少年少女じゃあるまいし、とっくにどうにかなっているのが自然だ。
エロいキスまでしておいて未だにどうにもなっていないということは、彼には気がないということだろう。
彼が私に示したのは、意思の強さではなく、私という女が彼の意思を揺るがせないという結果だ。
でももし、女性の魅力満点の菜摘ちゃんだったら?
「考えるのやめよう。また落ち込んできた……」
気合いを入れ直し、上着を脱いでエプロンを装着。
彼が帰宅するまでざっくりあと2時間。
頑張っている彼のために、私も頑張ろう。