恋愛じかけの業務外取引

再び重い沈黙が数秒。

一秒ごとにいたたまれない気持ちが増してゆく。

「くっ……くっくっくっくっ……」

堤さんは堪えきれなくなったように肩を揺らし、小さく笑い始めた。

「笑わなくたっていいじゃん!」

顔がかあっと熱くなる。

きっと真っ赤になっているに違いない。

「これが笑わずにいられるかよ」

なにそれ、ひどい。

私の気持ちまで馬鹿にしなくてもいいじゃない。

悔しくて、悲しくて、目にみるみる涙が溜まっていく。

仕事相手に涙なんて見せたことなかったのに。

「泣きそうな顔もかわいいよ、マヤ」

私の顔に触れようとした彼の手を思いきり振り払う。

「ほっといてよ。もう帰る!」

睨みつけて捨てゼリフを吐くが、涙ぐんでしまったのを悟られてダサさが倍増しただけだ。

私、バカみたい。

どうして好きだって認めちゃったんだろう。

「待てよ」

堤さんが踵を返した私の腕を掴み、強い力で引き戻す。

勢い余ってお互いの体がぶつかり、私はそのまま彼の腕に抱き留められた。

自分の鼓動があまりに強くて、部屋着越しに彼に伝わっているのがわかる。

「放して……」

口ではそう言った。

しかし私の本心を理解しているのか、堤さんは余計に腕の力を強くした。

「俺を好きなら、またキスしていいよな?」

耳元で囁かれた言葉が、甘い刺激になって全身を駆け巡る。

「それ以上のことも、していいよな?」

目の前にかざされた極上の誘惑を前に、なす術が見つけられない。

「好きにして。私は堤さんになら、なにされてもいい」

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