恋愛じかけの業務外取引

「な、なにこれ……」

足の踏み場もないとは、まさにこのこと。

玄関を入ってすぐの部屋はダイニングキッチンなのだが、床には衣類やマンガ雑誌、そしてイズミ商事が扱っている商品などが散乱している。

キッチンの調理台には空いたペットボトルや缶、そしてカップ麺やコンビニ飯の空き容器であふれ、料理をするスペースなど皆無。

ダイニングの奥にある扉から寝室兼リビングのような部屋が見えるが、遠目に見てもなかなかの散らかりようである。

あまりにも見事な惨状に、私は唖然としてしまった。

さすがに恥ずかしく思っているのか、堤さんは腫れた頬をさらに膨らませる。

「だから言ったじゃん。かなり散らかってるって」

「こうなる前にどうにかしようとは思わなかったんですか!」

「思ったけどできなかったんだよ。だからあんたに頼んだんだろ」

彼が突然、私の右手を取った。

私の右手も彼の頬と同様、拳頭がアザになってしまっている。

手の平の爪が刺さったところも軽く腫れているし、かさぶたもある。

彼は私の手の状態を確認すると、そのまま彼の頬を覆うように触れさせた。

必然的に距離が縮まり、ドキッとして息が詰まる。

腫れた頬からは、明らかに正常ではない体温が感じられた。

「熱い……ですね」

「だろ? まだ腫れてんだ」

不敵な笑みを浮かべ、直に腫れを認識させる。

なるほど、こうして私の罪悪感を煽ろうという魂胆か。

効果はてきめんだ。

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