恋愛じかけの業務外取引
私はきっと今、ひどく情けない顔をしているだろう。
見せたくなくて彼に背を向けたままコートを着てパンプスを履く。
「送る」
靴箱の上にある車のキーを握った音がした。
「ビール飲んだ人の車になんか乗らないよ」
「……そうだった」
鍵が元の位置に戻る。
表情を引き締めて彼の方を振り向くと、彼が複雑な表情で両腕を開いた。
吸い込まれるようにその体に抱きつくと、期待通りに抱き返してくれる。
「女たらし」
「俺がたらしてんのはマヤだけだよ」
「そんな私だけ、嬉しくない」
「そのままずっと俺のこと好きでいて」
「堤さんも私を好きになってくれたらね」
という私の返事には、曖昧に笑うだけでやっぱり答えてはくれない。
体を離すと、彼の方から触れるだけのキスをくれた。
「気をつけて。送ってあげられないけど、ナンパにはついていかないように」
「善処します。お約束はいたしかねますが」
軽く笑い合って、彼の部屋を出た。
キンと冷えた外の空気に、彼からもらった体温と持て余していた熱はすぐに奪われていった。
もうほぼ冬といってもいい寒さに身が縮む。
別に期待していたわけではないが、自宅に到着するまで、私をナンパする男はひとりも現れなかった。