恋愛じかけの業務外取引
「なんですか! やめてくださいよ!」
これでも一応、セットしてきてるのに。
「警戒しすぎ。言ったろ? これは“取引”だって。取引に応じた時点で俺はあんたを許してるし、関係はイーブンだと思ってる」
彼はさっきの色っぽさが嘘のように、腫れた頬を上げて笑って見せる。
「でも……」
「俺の世話さえちゃんとやってくれれば、この件で責めたりしないよ」
「本当ですか?」
「もちろん」
よかった……。
機嫌を損ねてやっぱり被害届を出すと言われるのではないかとビクビクしていたから、それを聞いて「怖い」という気持ちはなくなった。
だからって、申し訳ない気持ちはなくなったりしないけれど。
「イジって遊びたいときは別だけどな」
「イジっ……?」
私、まったくもってイジられキャラじゃないけど。
それで楽しんでくれるのであれば、それでいい。
「じゃあさっそく仕事をお願いしようかな。早くキレイになった部屋でそれ食べたいし」
堤さんは仕切り直すようにそう言って、私が持っている菓子折りの袋を指差した。
「そうですね。まずはお茶を淹れられるレベルまで片付けます」
ここまで見事だと、どれくらいかかるかはわからないけど。
「おやつの前に、昼飯どうする? お察しだと思うけど、うちには食材とかなにもないよ」
「少し片付いたら買い出しに行ってなにか作ります。リクエストや嫌いなものはありますか?」
料理は得意ではないけれど、○ックパッドがあればなんとかなるだろう。
「なんでもいいよ。あ、セロリと三つ葉とパクチーはマジで無理」
「わかりました。それじゃあ……」
「あ!」