恋愛じかけの業務外取引



毎日終電近くまで働いて、土日にも出勤した。

商品の確保だけが私の仕事ではない。

毎日ルーティンの業務だってあるし、新しい商品も発掘しなければならないし、広報関係の仕事だってある。

堤さんとは、毎日業務的なやり取りはしているが、プライベートではほとんど連絡が取れていない。

彼は彼で、私と同じように毎日終電近くまで働き、どうやら土日にも出勤したようだった。

そういえば、洗濯物はどうしているのだろう。

仕事ばかりしていて、もう10日以上彼の世話をしていない。

深夜10時過ぎのオフィス。

私は彼のことが無性に心配になって、まだ仕事は全然終わっていないのに、個人の携帯を取り出した。

【しばらく行けてなくてごめんなさい。洗濯物は大丈夫? ご飯、ちゃんと食べてる? 部屋もそろそろ大変なことになっているのでは?】

送信。

しばらく画面を眺めていたら、静かに既読が表示された。

【大丈夫。俺だって洗濯くらい自分でできる】

「え……」

思わず声が漏れた。

なんだかすごくショックだった。

彼がひとり暮らしをはじめてから、私が通うようになるまでの半年間。

上手下手はおいといて、彼は自分で自分のことをしていたのだから、不思議なことはない。

しかし、彼の身の回りの世話をすることは私の役目であり、恋人でもなんでもない私が彼のそばにいるための唯一の口実だ。

だから『自分でできる』だなんて言われると、『お前なんかいなくたって大丈夫』と突き放されたような気がして心が痛くなった。

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