恋愛じかけの業務外取引
洗い上がった服を外に干したあと、私たちは堤さんの車に乗った。
彼の車は国産のSUVで、車に詳しくない私でもわかるくらい、グレードが高い車種だ。
車体の色は黒で、シートも黒の本革&ファブリック。
うちのポンコツ車とは、乗り心地がひと味もふた味も違う。
ナンバーはこの辺りのものではなく、おそらく彼の故郷のものだろう。
外装も内装もまだキレイだけれど、何年か乗っている感じはする。
「いい車乗ってるんですね」
こんな車に乗るのは初めてで、汚したりしないかと緊張する。
「まあねー。俺の地元ではこれくらいの車に乗ってないとモテないし」
「いやいや、堤さんなら車なんてなくたってモテるでしょ」
うちの会社でさえ大人気なのだ。
自分の会社ではもっとスゴいことになっているのでは。
「そんなことないよ。車持ってたってこの年まで独身だし」
「この年って、まだ若いじゃないですか。私より下でしょう?」
どう見たって20代半ば。
27歳だと思っているのは、実年齢より若く見えているのだろうと高く見積もっての推定だ。
「あれ、山名さんギリギリ20代って言ってなかったっけ?」
堤さんはそう言って不思議そうに首を傾げる。
「ええ。ピチピチの29歳ですけど」
そしてあと2ヶ月ちょっとで30です。
「俺、32だよ」
「さっ……ええええっ?」
32歳! 年上! 見えない!
これでオーバーサーティーだなんてズルすぎる。
なんだかこの間から、彼には驚かされてばかりだ。