恋愛じかけの業務外取引
「ははっ、驚きすぎ。言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ。堤さんはずっと年下だと思ってました」
「そうなの? 山名さんってだいぶ気の強いタイプの女性なのに、俺がタメ口になっても敬語のままだし、知ってると思ってた」
「いや、それは申し訳なさから来ていると言いますかなんと言いますか。私は加害者ですし」
「なるほど、それもそうか」
チラッと彼の方を見る。
頬骨付近のアザは、出かける前に私のコンシーラーをたっぷり使ってある程度消してきた。
服装は、動きやすい服をと思って着てきた私と揃えるように、パーカーと細身のチノパン。
色味もなんとなく似ているため、今流行りの“カップルでペアルック”みたいで少しだけ恥ずかしい。
セットされていない洗いっぱなしの髪型も、襟のついていない服を着ている姿も、仕事中にはまず見られない。
彼のキレイな顔に触れたとか、償いのために生活の世話をすることになったとか、こうしてドライブをしているとか。
彼を『りんりん』呼ばわりしているうちのミーハーな女子社員なら、飛び上がって喜びそうなシチュエーションだ。
赤信号で停車。
堤さんはこちらを向いて、おもむろに私の名を呼んだ。
「マヤ」
「はいっ?」
両親以外から呼び捨てにされるのは慣れていなくて、少し焦る。
それが顔に出ていたのか、堤さんは満足げに口の端を上げる。