恋愛じかけの業務外取引

「マヤって名前、呼びやすくていいね」

「はあ。ありがとうございます」

「マヤって呼んでいい?」

「お好きにどうぞ」

「俺のことも凛太郎って呼んでいいよ」

「それは遠慮しておきます」

ずいぶん軽いノリで呼び捨てにされてしまった。

学生同士ならまだしも、いい年した男女が名前で呼び合うなんて、恋人同士じゃあるまいし……なんて思ってしまう私は、男性との距離の取り方が下手なのかもしれない。

かたや誰にでもすぐに気に入られ、人の懐に入るのが上手な彼。

まるで人懐っこい小型犬。

筋金入りの姉御肌である私は、男女問わず、このワンコ系にすこぶる弱い。

頼られると応えずにはいられない性分なのだ。

たまにこんなことを考える。

こちらは世話をしているつもりだが、かわいい顔をして実はとても目ざとく甘え上手でずる賢い彼らに、うまく使われているだけなのかもしれない……と。

だけどまさか、身内や仲間だけでなく、とうとう取引先営業マン(しかも年上)の私生活の世話まですることになるなんて……。

己の過失が原因とはいえ、私はもう世話焼きな姉御としてしか生きていけない運命なのかもしれない。

「なんか、変なことになっちゃったなぁ」

20代のうちに最後の恋人を見つけようと思っていたのに、こんな状況では到底難しいだろう。

家族でもない男の世話をしている女を彼女にしたい男性なんて、いるわけがないのだから。

「ん? なんか言った?」

「いいえ、なにも」



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