恋愛じかけの業務外取引
こんな時間に誰だろう。
「私、出なきゃ」
起き上がり、彼の腕から出る。
とりあえず彼が寝るときに着ているスエットのトップスをかぶり、ギリギリ臀部が隠れる程度の服装で隣の部屋へ。
放ったバッグからこぼれ出ている社用携帯電話は、フローリングで「まだかまだか」と震え続けていた。
【着信 上島雄二】
ディスプレイの表示を確認して、通話ボタンをタップ。
なにかあったのかもしれない。
不安な気持ちで応答する。
「もしもし。山名です」
『あ、マヤさん? 俺だけど』
声が明るい。
悪いニュースではなさそうなことに安心する。
「お疲れさま。こんな時間にどうしたの?」
『うん、思いっきり夜分にごめんね。今ちょっとだけ大丈夫?』
「まあ、少しなら」
暖房の効いていないこちらの部屋の空気に熱を奪われ、脚と脚を摺り合わせる。
堤さんにたくさん熱をもらったばかりなのに、あっけなく一瞬で冷めてしまった。
人のぬくもりなんて所詮はその時だけの刹那的な安心に過ぎないのだと、思い知らされた気分だ。
『よかった。えっと、少し待って』
「え? ちょっと、なに? 上島?」
上島は数秒間、不可解な沈黙を設けた。
そして。
『0時ピッタリ。マヤさん、誕生日おめでとう!』