恋愛じかけの業務外取引
せっかくの祝いの言葉なのに、私はこの世の終わりのような絶望に落とされた。
全身の血の気が引いていく音が聞こえる。
さっき摺り合わせた脚から力が抜けていく。
私はヘナヘナとその場にひざをついた。
冷たいフローリングに自分の熱まで奪われて、私はますますうちひしがれた。
甘くて幸せなひと時を過ごしていたのに。
決定的な場面だったのに。
私が彼の言葉よりも電話を選択してしまったばっかりに、一生に一度のチャンスを逃してしまった。
私はとうとう彼を手に入れることができないまま30歳になってしまったのだ。
『マヤさん?』
「え、ああ。わざわざありがとう」
『うん。じゃあ俺はこれで。またそのうち仕事でね』
「そうだね。お疲れさま……」
『お疲れさま。じゃあねー』
電話が切れた。
力なく腕を下ろすと、携帯が手から滑り落ちて行く。
次の瞬間、目に大量の涙が溜まり、すぐにこぼれていく。
懸命に息を殺した。
嗚咽を漏らしたり鼻をすすったりしないように、バッグからハンカチを取り出し鼻と口元を押さえる。
泣いているなんて、絶対に堤さんにバレたくない。
涙よ止まれ。
私はもっと強い女だったはずだ。
「マヤ?」
通話が終了したのに戻らない私を心配してか、堤さんが私を呼ぶ。
私は喉の周辺すべてにありったけの力を込めて返事をする。
「ん?」