恋愛じかけの業務外取引
「送ろうか?」
愛しい。
私の決意が揺らぐが、右手に持ったものを握りしめ、意思を取り戻す。
「ううん。ひとりで帰れる」
「そう?」
私は彼に流される快感を知ってしまった。
相変わらずキス魔な彼があちこちに唇を落とし始めてしまう前に、けじめをつける必要がある。
そっと彼の腕を解き、右手に持っていたものを突きつけた。
「堤さん。これ」
「え……?」
私の右手にすっぽり収まる、銀色の金属。
自由な出入りを認めた者にしか与えられない、この部屋へのプラチナチケット。
「合鍵。お返しします」
堤さんは呆然と私の顔を見つめている。
全然受け取る気配がないので、手を掴んで無理矢理握らせた。
「なんで?」
「だって、取引が終わったのに私が持ってるのはおかしいでしょ?」
「でもこれから……」
彼がなにか言いだしたのを制止した。
きっと私が喜ぶような言葉をくれようとしていたのだと思う。
だけどそれは彼が私に流されて出した答え。
リミットを過ぎてしまった今、私にはもう焦る理由がない。
「もしまたこの鍵を私にくれるなら、堤さんの迷いが完全に晴れてからがいい」
彼は私の言葉を噛み締めるように鍵を握りしめる。
そして一度だけ深く頷いた。
「わかった。でもこの鍵はマヤのものだ。必ず返す」