恋愛じかけの業務外取引
「マヤ姉、誕生日おめでとう〜!」
朝食のためにダイニングへ行ったら、家族全員に拍手で迎え入れられた。
アキは手にユリお手製のチーズスフレケーキをのせた皿を持っており、ケーキには「30」という形のロウソクが刺さっている。
「ありがとう」
「ほら、火を消して消して!」
一息で消すと、再び拍手が。
朝っぱらから賑やかな家族である。
「ふつうこういうのって夜にやるんじゃないの?」
私が首を傾げると、みんなはムッとした顔をした。
「だってあんた、最近仕事だって言って毎日遅くまで帰ってこないじゃないの」
母が呆れたように言うと、みんながうんうんと頷く。
「いやいや、ほんとに仕事だし」
「昨夜だって帰ってきたの1時過ぎだったじゃんか。マヤ姉が帰ってくるまで待ってたら、誕生日終わるだろ」
アキの言葉に、内心ギクリとする。
昨夜帰りが1時過ぎになってしまったのは、仕事ではなく堤さんの部屋にいたからだ。
彼の部屋に行かなければ、10時半頃には帰宅できたと思う。
それでも十分に遅い時間なのだが。
「マヤももう30歳か」
父がしみじみ呟いた。
「そうだよ」
「俺が30歳の頃、マヤはもう小学4年生だったなぁ」
「……うるさい。未だに独身ですみませんね」
このように、私の30歳の朝は家族とスフレチーズケーキで始まった。
みんなの顔を見ていると、昨夜は泊まらずに帰ってきて正解だったと思った。