恋愛じかけの業務外取引
午後。
予定時間通りにラブグリ1号店へ入ると、菜摘が満面の笑みで迎えてくれた。
「山名さん、30歳のお誕生日おめでとうございます!」
わざわざ『30歳』を強調したあたりに少しだけ悪意を感じるが、ここは素直に喜んでおくとする。
「ありがとう。菜摘ちゃん、よく覚えてたね」
「やだぁ。山名さん店舗やってないから忘れちゃったんですか? カード会員さまの誕生日は、システムで月ごとに一覧表が出るんですよ」
「ああ、そういえばそうだっけ」
誕生日月の会員さまにはノベルティをプレゼントしているので、一覧表をチェックして数を揃えておく必要がある。
「今日の日付の欄に山名さんの名前があったのを見たってだけです」
「それでも嬉しいよ」
どうやら彼女は毎日誕生日のお客さまをチェックしているらしい。
会計の際にカードを通せば誕生日だとわかる仕組みになっているが、きっと常連のお客さまには自分から声をかけているのだろう。
彼女の店長としての才覚には、やはりいつも関心させられてばかりである。
「ところで、昨日は堤さんと九州まで出張されていたそうですね」
思いがけない話題に、気まずさが一気に込み上げた。
彼女はまだ彼のことで私を責めるつもりなのだろうか。
「そうだけど、なんで菜摘ちゃんが知ってるの?」
「昨日、別の方が配達に来られたので」
「そっか」
菜摘は笑顔のまま続ける。