恋愛じかけの業務外取引

「なのに日帰りしたんですね。誕生日を迎えるベストな夜だったのに、九州まで行ったならいくらでも理由付けて泊まりに持ち込めるじゃないですか。バカ正直って損ですよ?」

このセリフを接客中さながらのキラキラスマイルで吐いているところがスゴい。

「あのね、私も堤さんも、のんきに九州旅行できるほどヒマじゃないの」

「だからぁ、一年に一度の誕生日くらい、仕事じゃなくて自分のこと優先したらどうかって話です。山名さん、そういうとこほんとに女っぽくないですよね」

あれ?

怒ってるポイントが思ってたのと違う。

「別に私たちなにもしなかったわけじゃ……」

ここまで口走って、己の失言に気づいた。

しまった。

言い訳する必要なんてないのに、つい余計なことを言ってしまった。

菜摘はふと笑顔を消す。

「えっ、したんですか?」

「いや、その……まあ……したけど」

「ふたりは付き合ってるってことですね?」

「付き合っては……ない」

菜摘が深くため息をつく。

我ながらいい年こいて面倒な男女だなとは思う。

することしておいて、気持ちも確認し合っておいて、それでもビジネスがうまくいっていないという理由で恋人未満。

端から見ればバカバカしいに決まってる。

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