恋愛じかけの業務外取引



1号店で打ち合わせをしたあと、競合の大手都市型ホームセンターと自然派雑貨店で市場調査をして、会社に戻ったのは午後4時すぎだった。

「ただ今戻りましたー」

暖房の効いた会社に戻るとホッとする。

特に女性従業員の多い我が社は、加湿装置も充実しているし、アロマディフューザーもフルタイムで稼働している。

大手のホームセンターにオリオンのフローリングシートが陳列されているのを見て沈んだ心が癒されてゆく。

労働環境に感謝。

席に着き、バッグからノートパソコンを取り出し線を繋いでいると、背後から声をかけられた。

「おかえりなさい」

聞き慣れた男性の声だが私はあえて振り向かない。

「どうも」

ぶっきらぼうに応えると、今度は左から声がした。

「あれ、マヤさん。なんか怒ってる?」

「会社で名前呼びしないでって言ったでしょ」

私は左にいる上島を睨みつけ、周囲に聞こえないよう小声で注意する。

彼はニコニコ笑っており、まったく反省の色を見せない。

「はいはいすみませーん。なんでそんな不機嫌なの?」

昨夜決定的な瞬間を邪魔されたから、なんてこんなところで言えるわけがない。

「別に。あんたこそなんで本社にいるの?」

「海外からの納品が遅れてて、1課の人と打ち合わせしてた。せっかく来たからマヤさんに会って帰ろうと思って、しばらく待たせてもらってたんだ」

「だから、名前やめて」

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