恋愛じかけの業務外取引

おもしろがってわざとやっている。

私は勢いよく立ち上がった。

「話があるなら、外で聞く」

怒気を含ませて告げると、私が本気で不快に思っていることを悟ったのか、一瞬顔を引きつらせて苦笑いを浮かべた。

ふたりでビルの共有スペースにある休憩所へ移動し、彼の顔に似合わぬ好物であるブラックコーヒーを買う。

「ありがとう」

自分には疲れに効きそうな甘いホットミルクティーを。

以前は頻繁にこんなシチュエーションがあったことを思い出し懐かしくなるが、もうあの頃のように彼をかわいいとは思わないし、恋愛的なときめきもない。

私に残っているのは『期待外れ』と言われてついた傷だけだ。

「上島。会社でああいうのは本当に困る」

「ごめん。困らせるつもりはなかったんだけど」

ばつが悪そうにコーヒーを一口。

香ばしい香りがこちらにも漂ってきた。

「じゃあ、どんなつもりだったの?」

「あの頃の距離感、取り戻したくて」

許しを請うような上目遣いは新人の頃と変わらない。

先日『成長した俺を見てほしい』なんて言っていたけれど、どんなに成長しても人の根本は変わらないのかもしれない。

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