恋愛じかけの業務外取引
「あの頃の距離感、私にはもう無理。ごめん」
強調した謝罪の言葉が私たちしかいない休憩所にビリッと響いた。
心理戦のように数秒見つめ合う。
先に目を逸らしたのは上島の方だった。
「俺、マヤさんの好きな人には敵わない?」
「うん」
「即答かよ」
「だって別格だもん」
「つーか、それってイズミの堤さん?」
「えっ……」
「あ、図星なんだ」
ニヤリと不敵な笑みを見せた上島。
カマをかけられ、あっさり引っ掛かってしまった。
それにしても、どうして堤さんだとわかったのだろう。
先日居合わせたときだって、私と堤さんは完璧にビジネスモードだったはずだ。
「キッパリ振られた腹いせにネタバレするけど、朝イチで堤さんからなんの前触れもなく『なにか問題はありませんか』って電話があったんだよね」
「それがどうかしたの?」
堤さんはマメで、企画営業部や店舗にだってしばしば同じような電話をくれる人だ。
なにも不思議ではない。
しかし彼にとっては違ったらしい。
「だから、夜マヤさんに電話したとき、あの場に堤さんもいたんじゃないかって思ったんだ」
「えっ……」
どうしてそんなに勘が冴えているの?
もしかして彼の言った『成長』ってこういうこと?
「これも図星みたいだね。やっぱりか」