恋愛じかけの業務外取引
午後2時まで、あと10分という頃。
私は第2ミーティングルームに移動し、打ち合わせのセッティングをして課長と堤さんを待つ。
今日は12月に行う販促のフェアに向け、イズミに少し無理のある注文をお願いするための打ち合わせだ。
ラブグリーンマーケットで扱っている洗剤や掃除用具などのホームケア用品は、ほとんどがオーガニック製品で、大量生産されていない。
製品のメーカー自体が中小企業である場合が多いし、一定期間で製造できる量はあまり多くない。
うちに商品を卸している商社は、もちろん十分な在庫を確保しているが、通常よりずっと多く注文する場合には注意が必要だ。
本来ならもっと前から商社に意向を伝え、メーカーにも協力をお願いして準備をしてもらわねばならなかった。
しかし我が社の上層部の無茶振りで、フェアの開催が急に決定。
フェアの目玉商品にイズミから仕入れている商品が選ばれたため、このような打ち合わせを行うに至った。
――コンコン
扉から軽いノック音。
私が「どうぞ」と言うと、静かにスライドドアが開く。
「お待たせ、山名さん」
入室したのは、直属の上司である企画営業部2課の課長、斉藤彰(さいとうあきら)だ。
38歳既婚。最近3人目のお子さんが生まれたばかり。
結婚前は別人のようにスリムでイケメンだったが、結婚以降、奥さまの手料理が美味しすぎて幸せ太りしてしまい、今はぽっちゃり体型だ。
急用ができて昼前に一度本社を離れたため、2時に間に合わないかもしれないと案じていたが、ギリギリセーフ。