恋愛じかけの業務外取引

「山名さん」

「はいっ?」

急に笑顔がこちらを向いて、ギクッとした。

殴ったこともそうだけど、課長がいる前で「マヤ」と名前で呼ばれたりしたらどうしようとビビっていたから、その点がセーフだったことには安心しているし複雑な気分だ。

「先日はありがとうございました」

先日って、金曜のことですか、それとも日曜のことですか。

様々な意味を含んでいるのを察した私は、曖昧に短く返しておく。

「こちらこそ……」

私、完全に堤さんにかき乱されている。

この性悪め。

私が罪悪感でヤキモキしているのを見て楽しんでいるな。

まったく生活力ないくせに。

私が洗ったパンツと靴下を履いているくせに。

――コンコン

再びノック音が響き、私たちの意識はそちらに向かう。

食器の音がしたし、松田がお茶を持ってきてくれたのだ。

「どうぞ」

「失礼しまぁす」

彼女が入室するとミーティングルーム中に甘い香りが広がった。

彼女が持つトレーには、ティーポットとカップ、そしてスティックシュガーとスプーンが載っている。

「松田さん、こんにちは。いつも美味しいお茶をありがとうございます」

堤さんが得意のにっこり笑顔で告げると、松田はとても嬉しそうに頬骨を上げた。

「とんでもないですぅ。こちらこそ、堤さんにはいつも大変お世話になっておりますので」

「いえいえ、御社の方が僕たちのお客さまですから」

「私たちだって、御社がいないとお店開けませんよぉ」

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