恋愛じかけの業務外取引

さて、業務外労働の始まりだ。

部屋の様子はどうだろう。

日曜日は脱ぎ散らかされた服やマンガ雑誌が散乱していたダイニングキッチンを覗くと、洗濯カゴに入っていない靴下とシャツが落ちている程度で、そんなに散らかってはいない。

キッチンスペースにも清涼飲料水のペットボトルが一本置いてあるだけ。

寝室の方もベッドがメイクされていないくらいでほとんど変化はない。

「なーんだ、つまんないの」

なんて思うのはおかしいかもしれないけれど。

たった3日で同じだけ散らかるわけがないんだし。

ていうか堤さん、私のこと信用しすぎじゃない?

まったくの他人なのに、私ひとりを置いて出かけちゃって。

私が金目のものとか通帳と実印を盗んでトンズラするような女だったらどうするの。

日曜に片付けしたときに見つけたから、場所は把握済みなんですけど。

彼を頼りなく思いながらカレー作りに取りかかる。

米を炊飯器にセットして、肉と野菜を切り、炒めて、煮込む。

料理などし慣れない私は、たったこれだけの作業だとナメていた。

油が跳ねる! 仕事着が汚れちゃう!

ジャケットは脱いでいるけれど、他人の家でボトムの方を脱ぐわけにはいかない。

土曜日に出したスーツがやっと明日返ってくるのに、また出さねばならないのか。

しかも今度は染み抜き加工付きで。

不経済だなぁ。

今度来るときはエプロンを買ってこよう。

この家でしか料理なんてしないし、ここに置かせてもらおう。

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